2008/05/23
In India
 目の前の緑の草の上には、滑らかな茶色い毛をした動物の子供が寝転がっていた。斑のしっぽをゆらゆら揺らし、太い前足で煩い小蝿を追い払いながら、つぶらな瞳で僕を見ている。その表情はまるで無邪気な子猫だ。ただ違うのは、ビロードのような毛皮に包まれた大きな体に、細く黒い縞模様があること。そう、ここはデリーから列車で17時間離れた国立公園の中。僕の目の前にいるのは絶滅の危機に瀕しているベンガルトラの子供だった。

 それにしても暑い。インドが一年で一番暑い5月に来るんじゃなかったと思っても、後の祭り。気温は連日42度を超え、灼熱の日差しがオープンジープに照りつける。おそらく今まで経験した中で一番の酷暑だろう。そして、ここが地理的には日本と同じアジア地域に分類されるのだと思うと、まだまだアジアも広いものだと思う。

 広い国内を列車や車で旅をしていると、インドのccTLD(.in)が目に入ってくる。デリーの喧騒から遠く離れ、色とりどりのブーゲンビリアが咲き乱れ、郵便局も日によって開いていたりいなかったりの長閑なこの村にも、インターネットカフェがあるのに驚く。しかも利用者は外国人観光客ではなく、現地の人が様々な情報にアクセスしているのだ。

 カフェの隣では屋台の床屋が道端で散髪の最中だし、店の前には放し飼いの白い牛が座り込んで反芻を続けている。その横を人や犬、そして時にはしっぽをくるりと巻いた手足の長い猿達(ハヌマンラングール)までが通っていく。こんな長閑な村でも、人は情報のやり取りについては、数日かかる郵便、携帯電話、E-Mailをケースバイケースで賢く選んでいる。そう、他とのスムーズなコミュニケーション、それは人間の持つ極めて原始的な欲求の一つなのだろう。

 と、目の前で一人遊びをしていた子トラは、林の中から聞こえた母トラの一声高い呼び声に一瞬で立ち上がり、音も無く茂みの中に消えていった。そう、コミュニケーションとは、命ある全てのものにとって、本来、かけがえの無い大切なものなのかもしれない。

(J)
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